ウクレレの選び方

ヴィンテージMartin Style-0・1・2の違いを徹底解説!

人気のヴィンテージMartinウクレレ(以下、ヴィンテージMartin)、もちろんStyle-3が良いというのはわかっているんだけど高すぎてなかなか手がでないですよね(私も金銭的な理由でStyle-3は持っていません)。

この記事では比較的手の届きやすい価格帯のStyle-0〜2までの見た目と音色の違いを解説しています。予算が許せば状態の良いStyle-3を買うのがおすすめではありますが、40万円はちょっと、、という方向けに、現在でも10〜20万円くらいで買えるStyle-0〜2の違いを解説してみたいと思います!

はじめに:ヴィンテージMartinとは

アコースティックギターで有名なC.F.Martin(通称:マーティン)は、ウクレレの世界でもハワイのKAMAKAと並ぶ老舗メーカーです。

KAMAKAは1916年に創業、Martinは1833年の創業ですが、KAMAKAと同じ1916年から本格的にウクレレの製造を開始しています。

ウクレレの人気は1920年代後半に1度目のピークを迎えます。その後世界恐慌や太平洋戦争の影響もあり1930年代は生産数が落ちましたが1940年代にはまたコンスタントに生産されるようになります。そして1950年代に第2次ウクレレブームが訪れます。

ブームの去った1970年代後半に受注生産に切り替わるまで、Martinは60年間でおよそ19万本ものウクレレを生産しました。このおよそ19万本のウクレレが現在「ヴィンテージMartin」と呼ばれているものです。

1926年には15,000本以上のウクレレが作られたという記録が残っています。100年も前に作られた1920年代のウクレレが現在でも比較的入手しやすい理由です。

50年代の第2次ブームの時期のウクレレも数が多く、比較的新しいので入手しやすいです。(20年代と50年代では作られた時代がかなり違うので、雰囲気もかなり違います)

とくにスタイル0は人気があったため、たくさん作られました。16万本以上作られたソプラノウクレレのうち、半数以上がStyle-0なんだそうです。

ヴィンテージMartinの特徴

見た目

作られてから長い年月が経過しているので、雰囲気抜群です。傷や打痕、塗装の劣化やハガレも全部「味」です。これに慣れてしまうと、むしろピカピカの新品がちょっとさみしく感じられます。ヴィンテージ品は傷がないもの、修理歴がないもの、パーツがオリジナルであるものほど高くなる傾向があります。

音色

現代の新品楽器と比べると鳴りが良い。アタックが強く、大きな音が出るので弦や弾き方によってはうるさく感じることもあります。サスティーンは短め。コロコロとした素朴で温かみのある音色。時間の経過により木材も塗装もしっかり乾燥しているので、独特の乾いた音色がします。スタイルによって音色も変わってきます。(あとで説明します)

弾きやすさ

弦高が3mmくらいのものが多く、現代の高品質なウクレレと比べてしまうと弾きやすいとは言えません(弾きやすいではありませんが、弾きにくいでもありません。現代のウクレレでも、もっと弾きにくいものがたくさんあります。普通に弾けます。)。この弦高の高さも音色に影響するので安易にサドルを削ってしまうと途端に鳴りが悪くなる可能性も高いです。

音程の正確さ

現代の高品質な楽器に比べるとシビアなチューニングが求められますが、バシッとチューニングが決まればハイフレットの音程もそれほど悪くはありません。文献によると、スタイルによってフレット精度も違うようです。0や1よりも2や3の方が音程感は良いと感じます。

(余談)フロロカーボン弦を使うとピッチのズレは軽減され、フリクションペグでのチューニングの微調整もしやすくなります。

製造年代による違い

特に初期(1920年代〜)に作られたものはアンティーク品のような風格があり、楽器としての完成度が高く、木材も塗装も良く乾いていて音色が素晴らしいものが多いです。ボディ割れの修復歴があったり、傷があるものが多いです。

後期(戦後1945年〜)に作られたものは製造技術がこなれてきており品質のばらつきが少なく、ヴィンテージの中では新しい年代なので状態が良いものが多く、安心して買えるヴィンテージMartinとして人気があります。

どちらが良いかは個人の好みですが、1920年代のヴィンテージと1950年代以降のヴィンテージ、戦後の産業技術の変化も影響して両者は結構違う印象があります。

今回の比較記事では、およそ100年前に作られた【1920年代】の個体モデルで比較してみました。

Style-0・1・2 の見た目の違い

Style-3とStyle-5は指板材がエボニーで17フレットまであるのに対し、Style-0〜2はローズウッド指板で12フレットまでしかありません(見た目の特徴からブラジリアン・ローズウッドだと言われています。Style-3も1920年までは同じローズウッド指板でした)

ボディ、ネック、ブリッジがマホガニー。ナットとサドルがエボニー。これらの仕様もStyle-0〜2共通です。

Style-0はトップバックともにバインディングなし、Style-1はトップのみローズウッドのバインディング、Style-2はトップとバックにアイボロイドのバインディング。

Style-1は1926年からボディバックにもローズウッドバインディングが追加され、1936年にローズウッドからべっこう柄のセルロイドバインディングに変更になります。このStyle-1は1926年以前に作られたということになります。

ポジションマークはStyle-0が5・7・10フレットにシングルドット。Style-1とStyle-2は7フレットがダブルに。(1945年以降に作られたものはドットのサイズが一回り大きくなっています)

この年代は全モデル共通でバーフレットです。(1947年にTフレットに変更)

次はペグを見てみましょう。Style-0とStyle-1は1927年までウッドペグでした。Style-2は1923〜27年までMartinがGroverに特注したアイボロイドノブのNo.76というペグが使われていました。

(余談)このStyle-0はもともとウッドペグが付いていた時期のものなのですが、白いノブの古いNo.76が付いていました。当時のオーナーがウッドペグから交換したものと思われます。

その他、年代や個体によってサウンドホールの補強プレートがあったりなかったり、ブレイシング(表板や裏板の内側に接着して、板を補強するための木の棒=「力木(ちからぎ)」)の角が削ってあったりなかったりもするそうです。

年代の特定にはこちらの本を参考にしました。全て英語ですが、Martinウクレレの歴史がとても詳しく書かれた貴重な参考文献です。

Style-0・1・2 の 音色の違い

ソプラノのマホガニーモデルは1916年当初、Style-1、Style-2、Style-3の3機種のみがリリースされました。Style-1がプレーンなモデル、Style-3がプロ向けのモデル、Style-2はその中間的な立ち位置でした。

その後1922年に普及モデルのStyle-0が発売され大ヒット。同1922年に発売された最高級モデルStyle-5kのマホガニーバージョンであるStyle-5が1941〜42年にわずか20本だけ作られました。

プロフェッショナルモデルのStyle-3や、幻のStyle-5はハイグレードな材料や豪華な装飾で違いがわかりやすいのですが、Style-0〜2はバインディングなどの見た目の違い以外に具体的な違いがいくら調べてもよくわかりませんでした。

バインディングのないスタイル0よりバインディングのあるスタイル1の方が音にまとまりがあると言われ、スタイル1よりスタイル2の方が材のグレードが上がりより良い音がするとも言われています。

実際に弾き比べてみました!

1920年代ヴィンテージのStyle-0、Style-1、Style-2、そしてSumiのStyle-3レプリカ(2016年製)、合計4本のウクレレを弾き比べしてみました!

作られてからおよそ100年が経過しているため個体差も大きいですし、演奏者(私)の技術不足で均一な演奏ができておらず比較が難しいかもしれませんが、ヴィンテージMartinを検討されている方の参考になれば幸いです!

全てのウクレレにラベラのNo.11クリアナイロン弦を張ってあります(今回はGCEAのレギュラーチューニングにして比較しましたが、1920年代当時はDチューニングが主流でしたし、ヴィンテージMartinはDチューニングにした方がより歯切れが良く明るい音色になるのでおすすめです!)

Style-O

Style-0はバインディングがないので音にまとまりがなくちょっと暴れる感じ。ストラミングでは軽快な音色が気持ちいいが、上位モデルと比べるとソロ弾きでは音に深みがなくちょっと味気ない気もする。手に取りやすい価格なので、気楽に弾けるヴィンテージウクレレ。

Style-1

Style-1は表面にバインディングが巻かれているので音のまとまりがよくなり、さらにストラミングが気持ちいい!音の輪郭が出てきて、粒立ちもよく、ソロ弾きでもこの独特の乾いた軽い音色が心地よい。上位モデルStyle-2と比べると若干低音にさみしさを感じますが、軽快さ重視ならStyle-1が良いかもしれません。

Style-2

Style-2は裏表のセルバインディング、マホガニーもグレードの高いものが使われているようで、さらに音のまとまりがよくなります。Style-1に比べて歯切れの良さは少しおとなしくなりますが、太く深みのある音色、低音も豊かに響きます。0や1に比べてイントネーション(音程)もより正確な感じがするので、ストラミングだけでなくソロ弾きも楽しみたいなら総合的にレベルの高いStyle-2が良いかもしれません。

スタイルごとの音色のイメージ

実際に引き比べてみた感想を、イメージしやすいように電球の光にたとえて解説してみます。電球をイメージして、放たれる光を音だと思ってください。

Style-0はランプシェードなし、Style-1は浅めのランプシェードがついて、Style-2はもっと深いランプシェードがついているようなイメージです。

Style-0〜2の音の違いはイメージとしてはそんな感じです。

どれが良いかは完全に個人の好みですが、バインディングの有無による音の指向性の違い、材料のグレードによる音色の違いがはっきり表れていると感じました。

Sumi Style-3 Ditson レプリカ

最後に、ヴィンテージではありませんが、SumiのStyle-3 Ditson 1920’s レプリカも比べてみました。エボニー指板&ブリッジで音がグッと締まり、倍音も豊かに含みます。ヴィンテージMartinに比べるとアタックが大人しく感じますが、そのぶんボディがしっかりと鳴り、サスティーンも向上している印象です。

ヴィンテージMartinもイントネーションはかなり正確なのですが、さらに精度が高いので和音がより美しく響きます。弦高も高すぎずとても弾きやすいし、UPTペグでめちゃくちゃチューニングがしやすい。単純にウクレレの性能だけで言えば圧倒的に良いです(本家Style-3のヴィンテージは40万くらいしますが、SumiのStyle-3レプリカなら半分以下の値段で買えますし)。

ウクレレにピッチの正確さや弾きやすさ、チューニングのしやすさ等を求めるのであれば、ヴィンテージMartinではなく現代の高品質なウクレレを買うことをおすすめします。そちらの方が間違いなく快適です。

ヴィンテージMartinの魅力

まず、100年前に作られた木製楽器がいまなお弾ける状態を保っているということ自体が奇跡です。骨董品のような見た目の風格や貫禄は、この年代の楽器ならではです。「ヴィンテージ風」とは訳が違います。

そして長い年月の経過楽器の軽さ良質の材料技術の高さなどが組み合わさることでしか得られない、唯一無二のヴィンテージMartinサウンド。うるさいくらい強烈なアタック音、カラッと乾いた抜けの良いサウンドはヴィンテージMatinならではです。この「音色」こそが最大の価値(魅力)だと思います。

現代の高品質なウクレレと比べればピッチの精度が甘いこと、弦高が高いことによる弾きにくさ、フリクションペグの扱いにくさ、そうしたデメリットも「ご愛嬌」や「味」として納得させられてしまう魅力がヴィンテージMartinには確かにあります。

現行Martinウクレレとの違い

使われている材料の違い

現在もMartinはウクレレを作っているのですが、ファンの間ではヴィンテージMartinとは別物であると考えられています。

まず材料。昔の方が良い材料を使うことができたため、ヴィンテージMartinは同じStyleでも今より良い材料が使われています。

具体的には現在では大変貴重になっている純正マホガニー(Genuine Mahogany)をボディやネックに使用していること。

純正マホガニーとは

キューバマホガニー、メキシコマホガニー、ホンジュラスマホガニーのマホガニー属3樹種をそう呼びます。キューバンもメキシカンもすでに枯渇しており、現在手に入るのはホンジュラスマホガニーのみです。「最高級のマホガニー材を使っていますよ」という意味です。

S1などの安価なマホガニー単板モデルでは単に「マホガニー」としか表記されていませんので、アフリカンマホガニーなど入手が容易なマホガニー代替材を使用していると考えられます。

現在、Martinで純正マホガニーを使っているのは「Concert SFC」という30万円以上するモデルのみです(注:2023年限定生産ですが「0 soprano ukulele」もそうみたいです)。なので、ヴィンテージMartinは今となっては貴重な高級材を使用しているというメリットがあります。

ヴィンテージMartinの音色の良さは、材料の良さ時間の経過によるものが大きいのかなと思います。

作りや仕上げの違い

初期(1920年代)のものは手作り感が結構ありますが、フレッティングは正確ですし、作りも良いと感じます。Martinの技術の高さと品質へのこだわりが伺えます。100年経っても楽器として問題なく使えるっていうのは本当にすごいと思います。

ヴィンテージでも後期(50年代以降)のものは機械化が進んで技術的にもこなれてきており品質も安定していると言われています。

現在(2000年代以降)のMartinウクレレは、木目は1本ずつ違いますがいかにも現代の工業製品というような均一な仕上がりになっています。

ヴィンテージMartinの買い方

ヴィンテージウクレレは50年〜100年くらい前の楽器です。これまで使われてきた状況や楽器のコンディションの個体差が大きいです。同じ年代の同じモデルでも音色や弾き心地が結構変わります。可能な限り試奏して買うのがいいでしょう。お住まいの地域によっては店頭で実機を確認するのが難しいこともあると思いますが、せめて信頼できるショップで通販しましょう。

メルカリ、ヤフオクで買うのはハイリスク

中古品、ヴィンテージ品を買うにはリスクが高いと思います。もし良いものが安く買えたら超ラッキー!でも最悪の場合はダマされてしまうことも。ギャンブルみたいな感覚でスリルと快感を味わいたい方向けのハイリスク・ハイリターンの買い方といえます。

実際、オリジナルと書いてあるのにペグが違う年代のものに変わっているとか、書いてある年代と実際のウクレレの仕様が合っていなかったりというのは日常茶飯事。見極めるには相当の知識と目利きが必要です。

メルカリで中古ウクレレを買うリスクと注意点 これからウクレレを始めようとしている方や、2本目3本目を検討している方の中には「できるだけ安く買いたいけど、ウクレレって中古で買っても...

まとめ

フリクションペグのチューニングのしにくさ、弦高の高さ、ピッチの甘さ、そのあたりを我慢してでも弾きたくなる魅力がヴィンテージMartinには確かにあると感じます。

ヴィンテージMartinをしばらく弾いて、久しぶりにSumiのMartinレプリカを弾くとUPTペグのありがたみ、ピッチの正確さ、弾きやすさにあらためて感動してしまいます。

ヴィンテージMartinはロマンを楽しむウクレレ、Sumiのレプリカは演奏(弾きやすいので)を楽しむウクレレ、そんな感じで両方楽しめるというのは最高の贅沢だなあと常々感じています。

ヴィンテージMartinは、ご自身がウクレレに求めているものをよく理解した上で購入の検討をされることをおすすめします。

ウクレレのことなら何でもご相談ください!

私は全国展開している某楽器店でウクレレのトップ販売員として国内のウクレレ製作家さんやウクレレプレイヤーの方々との親交を深めてきました。

製作家さんやプロのミュージシャンとお話しすることで、たくさんのことを学びました。店頭でたくさんのお客様と接することでも、とても多くの知見を得ました。ウクレレをお探しの方へのカウンセリングや購入相談の経験には特に自信があります。

当店は、従来の「お店にあるものの中からお客様に選んで買っていただく」だけでなく、しっかりとお客様のご要望をお伺いしてお客様にとって最適なウクレレ(それが当店に在庫がない商品だとしても)をご提案させていただきたいと考えています。

これまでの経験と人脈を活かし、お客様のウクレレ生活をより楽しく豊かなものにできるようサポートしてまいります。お気軽にご相談ください!

実は下取・買取もできます!

当店は長野県公安委員会から古物商の営業許可を受けておりますので、ウクレレの買取や中古楽器の販売をすることができます。

買取査定は基本的にオンラインでさせていただき、宅配買取(こちらから箱を送りますので、必要書類と楽器を入れて送り返していただく)か、事務所(長野県松本市)の近くにお住まいだったり、売却したい本数が多い場合には出張買取もご相談ください。