ウクレレの弦はいろいろな素材や太さのものが発売されていますよね。なぜそんなにたくさんの種類があるかというと、素材や太さが変わると音色が大きく変わるからです。
今回、当店カルチベイトウクレレのオリジナルソプラノウクレレを発売するにあたり、出荷時に張る弦についてもしっかりとこだわってベストなものを選びたいなと考えました。
以前、ウクレレ弦を素材別に比較解説した記事を書いたのですが、今回はもう一歩深く踏み込んで弦の張力(テンション)について考えていきたいと思います。
弦の太さ、密度、長さ、音高、張力の関係について
弦には下記の4つの要素があり、その組み合わせにより弦の張力が決まります。
①弦の太さ 太くなるほど張力が強くなる
(例:ライトゲージ < ミディアムゲージ < ヘビーゲージ )
②弦の重さ 重い素材ほど張力が強くなる
(例:ナイルテック < ナイロン < フロロカーボン )
③弦の長さ 弦長が長くなるほど張力が強くなる
(例:ソプラノ 346mm <コンサート 381mm < テナー 430mm )
④音の高さ 音が高くなるほど張力が強くなる
(例:3弦 C < 2弦 E < 4弦 G < 1弦 A )
= ①②③④の組み合わせで弦の張力が決まる
③④については基本的に決まっている部分なので、①②を変えることで張力を調節することができます。
弦の張力が楽器に与える影響
弦の張力が弱いと
→ 弦を押さえやすい、音が細くなる・弱くなる・柔らかくなる
弦の張力が強いと
→ 弦を押さえにくくなる、音が太くなる・強くなる・硬くなる
弦の張力が弱すぎると
→ 楽器が鳴りにくい(楽器を響かせるエネルギーが足りずに音量が小さくなる)
弦の張力が強すぎると
→ 楽器が鳴りにくい(楽器に過度なテンションがかかりボディが響きにくくなる)
経験上、弦の張力は強すぎても弱すぎても良くありません。以前から弦のテンション(張力)によって楽器の鳴らしやすさ、響きやすさが変わるような気がしていて、適切な張力の弦を選ぶことで楽器の鳴りを最適化することができるのではないかと考えています。
張力の強い弦と相性の良い楽器の特徴
重い木材だったり、厚めの板を使っていたり、ファンブレイシングなどの力木ががっちりと入っている本体重量が重め(400g以上)の楽器だと、張力の弱い弦では鳴らしづらく感じます。がっちりと作られた楽器をしっかり響かせるには、張力強めの弦で、しっかりと弦を弾いてあげる必要があるように思います。
張力の弱い弦と相性の良い楽器の特徴
ヴィンテージウクレレのように本体重量が軽め(250g〜350gくらい)で、ファンブレイシングなどの力木がない(もしくは少ない)楽器には張力の弱い弦が向いていると感じます。強い弦だと楽器の響きを妨げてしまうので、弱い張力の弦で、あまり強くピッキングしない方が楽器がよく響くと思います。
弦の張力データをみてみよう
ダダリオのウクレレ弦のパッケージには弦の太さだけでなく、張力まで書いてあります。なんて親切なんでしょう!そこで現行の5種類のウクレレ弦の張力を比較してみました。
ブラックナイロン EJ53S
ブラックナイロン EJ53S | 太さ inch | 太さ mm | テンション kg |
A: 1ST | .0280 | 0.71 | 4.89 |
E: 2ND | .0330 | 0.84 | 4.29 |
C: 3RD | .0400 | 1.02 | 3.42 |
G: 4TH | .0290 | 0.74 | 4.91 |
テンション激強!これが最も張力の高い弦セット
ブラックナイロンのEJ53Sは密度の低いナイロン素材にしてはかなり張力が強いです。太くなるほど張力は強くなるので、太さの影響が大きいと思います。
クリアナイロン EJ65S
クリアナイロン EJ65S | 太さ inch | 太さ mm | テンション kg (ADF# B ) | GCEA時のテンション kg |
B: 1ST | .0240 | 0.61 | 4.72 | 3.74 |
F#: 2ND | .0320 | 0.81 | 4.38 | 3,47 |
D: 3RD | .0340 | 0.86 | 3.40 | 2.69 |
A: 4TH | .0280 | 0.71 | 4.89 | 3.87 |
レギュラーチューニングでは程よい張力だが3弦が弱い
クリアナイロンも、推奨されているDチューニング(1音上げ)にした場合、ブラックナイロンEJ53Sと同じくらいの張力になります。
GCEAのレギュラーチューニングにした場合はかなりテンションが下がります。3弦が特に張力が弱く、これが低音がぼやける要因なのかなと。
チタニウム EJ87S
チタニウム EJ87S | 太さ inch | 太さ mm | テンション kg |
A: 1ST | .0280 | 0.71 | 3.79 |
E: 2ND | .0333 | 0.85 | 3.01 |
C: 3RD | .0403 | 1.02 | 2.78 |
G: 4TH | .0290 | 0.74 | 3.23 |
表面が硬いが比重は軽い、不思議な弦
チタニウム弦は表面が硬い感じのする弦ですが、結構張力が弱いんですね。3弦は極太で張力が弱いので、弦高が低いとビビりそうになるのも納得です。
ナイルテック EJ88S
ナイルテック EJ88S | 太さ inch | 太さ mm | テンション kg |
A: 1ST | .0236 | 0.60 | 2.78 |
E: 2ND | .0303 | 0.77 | 2.57 |
C: 3RD | .0362 | 0.92 | 2.31 |
G: 4TH | .0256 | 0.65 | 2.59 |
張力弱めでヴィンテージなど軽めの楽器に合う弦
ナイルテックは弾いてみるとそこまで感じませんが、数値で見ると驚くほどテンションが低いんですね。軽く弾いてもよく鳴るヴィンテージMartinと相性が良いと感じる弦なのですが、この弱いテンションが深く関係していそうです。音はいいのですが、温度変化に敏感ですぐにチューニングが狂ってしまうのが難点です。
フロロカーボン EJ99SC
フロロカーボン EJ99SC | 太さ inch | 太さ mm | テンション kg |
A: 1ST | .0205 | 0.52 | 3.58 |
E: 2ND | .0260 | 0.66 | 3.24 |
C: 3RD | .0319 | 0.81 | 3.07 |
G: 4TH | .0224 | 0.57 | 3.40 |
扱いやすい張力のオールマイティなフロロ弦
EJ99SCはナイロンよりも重いフロロカーボンでできた弦なのですが、弦がかなり細いので張力は弱めです。フロロカーボン弦はゲージの選択肢がたくさんあるので、オリジナルのゲージセットを作りやすいメリットがありますね。
最適な張力になる弦の組み合わせを見つける
オリジナルウクレレの試作段階ではフロロカーボン弦の定番「WorthのCM」を採用していました。
オクターブピッチの正確さ、温度変化によるチューニングの狂いにくさなどを考慮してフロロカーボン弦にしたのですが、このWorthのCMだと 低音がやや軽く、1弦の鳴りも弱いという不満がありました。
ここからは弦の太さを調節することでオリジナルウクレレに最適な張力を探っていきます。
まず基準となるWorth のミディアムゲージCMのデータを見てみましょう(メーカーは張力データを公表していません。私が簡易的に張力計算した数値ですので参考程度にしてください。)
フロロカーボン Worth CM | 太さ inch | 太さ mm | テンション kg |
A: 1ST | .0205 | 0.52 | 3.58 |
E: 2ND | .0260 | 0.66 | 3.24 |
C: 3RD | .0291 | 0.74 | 2.57 |
G: 4TH | .0224 | 0.57 | 3.40 |
同じクリアフロロカーボンのダダリオEJ99SCと比べると、3弦以外は同じ太さでした。
3弦のテンションが低すぎるのかな〜と思い、試しにEJ99SCの3弦(0.81mm)に交換してみたところ、しっかりと低音が前に出てきてバランスがグッと良くなりました!ボディがしかりと響いている感じがします。
しかし1弦はまだ音が細く、弾いた時のボディの響きが弱い感じがします。そこで1弦を少しだけ太く(0.52mm→0.57mm)にしてみたのですが解消しなかったので、もしかしたら逆にテンションが強すぎるのかも??
そこで3弦以外をWorthのライトゲージCLと同じにしてみました。2弦はミディアムゲージのCMと同じ(0.66mm)ですが、1弦(0.47mm)4弦(0.52mm)と少しずつ細くなっています。
カルチベイトウクレレオリジナル | 太さ inch | 太さ mm | テンション kg |
A: 1ST | .0185 | 0.47 | 2.94 |
E: 2ND | .0260 | 0.66 | 3.24 |
C: 3RD | .0319 | 0.81 | 3.07 |
G: 4TH | .0205 | 0.52 | 2.86 |
するとどうでしょう、、
1弦を弾いた時のボディの響き方が改善し、軽く弾いても気持ちよく鳴るようになりました。全弦の音量バランスも良好。ソロでポロポロ弾いても、ジャカジャカとストラムしてもストレスない感じ!
その後、2弦と4弦を少し太くしたり細くしたりといろいろ試行錯誤してみましたが、最終的にこの組み合わせに落ち着きました。一般的には1弦のテンションが一番強くて、2弦、3弦と下がっていくのがセオリーなのですが、弾きにくさはとくに感じませんでした。
これまでテンションの弱いダダリオEJ88Sを張っていた私物のヴィンテージ(1920年代)のMartin Style-2や、Sumiの3Mレプリカにもこのセットを張ってみましたがなかなか良い感じでした。音はやや細く(軽く)なりましたが、明るく抜けが良くなりました。
オクターブピッチやチューニングの狂いにくさといったフロロカーボン弦の恩恵も得られますし、一般的なソプラノウクレレなら全般的に合うのではないかと思います(重く作られているそもそも鳴りにくい楽器だと鳴らしきれない可能性はあります)。
テンションが低いので弾きやすく、フロロのキンキンする感じがあまり好きじゃない方にもおすすめのセットです。「楽器の響きを妨げない、張力を最適化したソプラノ専用弦」として当店でも販売してみようかなと検討しています。
(もし市販の弦で試すなら、1・2・4弦はWorthのCL、3弦だけWorth CFかダダリオEJ99SCにすると同じ感じになります。EJ99SCの2・3弦と、1弦を4弦に張り、1弦だけCLを張るという方法もありますね。フロロカーボンで太さが同じならメーカーが違っても大体同じ結果になります(大事なのはあくまでも張力なので)。
オリジナルウクレレ弦セットが完成!
ウクレレのことなら何でもご相談ください!
私は全国展開している某楽器店でウクレレのトップ販売員として国内のウクレレ製作家さんやウクレレプレイヤーの方々との親交を深めてきました。製作家さんやプロのミュージシャンとお話しすることで、たくさんのことを学びました。店頭でたくさんのお客様と接することでも、とても多くの知見を得ました。ウクレレをお探しの方へのカウンセリングや購入相談の経験には特に自信があります。
当店は、従来の「お店にあるものの中からお客様に選んで買っていただく」だけでなく、しっかりとお客様のご要望をお伺いしてお客様にとって最適なウクレレ(それが当店に在庫がない商品だとしても)をご提案させていただきたいと考えています。これまでの経験と人脈を活かし、お客様のウクレレ生活をより楽しく豊かなものにできるようサポートしてまいります。お気軽にご相談ください!
電話やビデオ通話、対面での接客もできます!
ネットショップではありますが、お電話での接客、ZOOMやLINEなどのビデオ通話を使った接客も行っております(事前にご予約ください)。長野県松本市に事務所がございますので、松本までお越しいただければ実際に手に取って商品をご覧いただくことも可能です(こちらも事前にご予約をお願い致します)。電話や来店のご予約はオンラインショップの問い合わせフォームからお願い致します。
実は下取・買取もできます!
当店は長野県公安委員会から古物商の営業許可を受けておりますので、ウクレレの買取や中古楽器の販売をすることができます。買取査定は基本的にオンラインでさせていただき、宅配買取(こちらから箱を送りますので、必要書類と楽器を入れて送り返していただく)か、事務所(長野県松本市)の近くにお住まいだったり、売却したい本数が多い場合には出張買取もご相談ください。
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